「ChatGPTで提案書、3分で作れます」——SNSでこのフレーズを初めて見た日、私は本気で焦りました。住宅設備の現場を14年、年間100泊で全国を回って積み上げてきた営業の蓄積が、3分で再現できる時代が来たのかと。
ただ、実際にAIで作った提案書を施主さんに出してみて——一度、痛い目を見ました。「文章はキレイなんだけど、なんかうちの話じゃないみたい」と言われたのです。情報は正しい。論理も通っている。でも、心に刺さらない。
AIで効率化できる作業と、人間にしかできない仕事——この線をどこに引くかで、これからの営業の成果は2倍以上違ってくる。これが、AIを2年使い続けた今の、私の正直な実感です。
住宅設備の外勤営業を14年やっている、JET(@jet110_blog)です。年間100泊以上、現場と販売店を回りながら仕事をしています。
少し前、僕はChatGPTを使って販売店向けの提案資料を作りました。納期遅延が続くメーカーの代替提案で、本来なら半日かかる資料が30分で完成。「これがAI時代の営業か」と一瞬ガッツポーズしたんです。
……翌週、その資料を持って商談に行ったら、ベテランの設備屋さんに資料の数字を一点だけ突かれて、僕は固まりました。AIが拾ってきた型番のスペック表記が、最新の仕様改訂前のものだったんです。その場で「あ、すみません確認します」と引っ込めるしかなく、気まずい沈黙が10秒くらい続きました。
大事故ではないです。でも、現場のプロは「数字一つの違和感」で営業の解像度を測ってきます。AIで効率化したつもりが、信頼の貯金を一回減らした瞬間でした。
この記事は、その失敗以降に僕が組み直した「AIとアナログの役割分担」の話です。教科書的な「AI×営業のメリット10選」ではなく、14年外を回ってきた人間が、いま現場でどう使い分けているかを書きます。結論から言うと、外勤営業はAIで効率化「だけ」を追うと負けます。勝ち筋はハイブリッドの一択です。
1.「AIに全部やらせる」がなぜ外勤営業で機能しないか
冒頭の失敗のあと、僕は同じ轍を踏まないために自分の業務を一回棚卸ししました。出てきた答えはシンプルで、外勤営業の仕事は「情報処理」と「関係構築」の二層構造になっているということ。AIが得意なのは前者だけです。
住宅設備の業界で言えば、こうなります。
- 情報処理層:型番検索、仕様比較、見積書のたたき、議事録、移動ルート、メール文面 → AIが得意
- 関係構築層:販売店の社長と立ち話、現場監督との温度感共有、施主さんの「なんとなく不安」を引き出す雑談 → AIは入れない
僕がやらかしたのは、関係構築層に持ち込む資料を、情報処理層のAI任せにしてしまったこと。「最後の一押しの場面」にAI生成物を裸で持ち込むのは危険だと、あの10秒の沈黙で学びました。
逆に言うと、ここの線引きさえ守れば、AIは外勤営業にとって過去最強の味方になります。次の章から、僕が現場で実際に使っている分担を書きます。
2. 僕がいま使い分けているAI4種+アナログ
ChatGPT:たたき台専用。納品物には絶対しない
失敗を踏まえて、ChatGPTの役割は「ゼロから1を出す係」に固定しました。提案構成のラフ、メール文面の下書き、議事録の要約、想定問答の素振り。そのまま顧客に出すことは、原則しません。必ず最新カタログ、メーカーサイト、社内の納期表で裏取りしてから出す。1.5倍時間がかかっても、信頼の貯金は守ります。
Claude:長文の整理と「論点抽出」
商談の録音文字起こしや、長い仕様書を読むときはClaudeを使います。1万字以上の文章でも論点が崩れにくく、「次回の打ち合わせで詰めるべき3点」みたいな抽出が綺麗です。移動の新幹線でやると、現地到着時には頭が整理されている状態を作れます。
NotebookLM:自分専用のメーカー資料データベース
これが一番効いている使い方です。担当メーカーのカタログPDF、仕様書、過去の議事録を全部NotebookLMに放り込み、「TES熱源機の納期見通しは?」と聞けば、出典付きで答えが返ってきます。ChatGPTで起きた「ハルシネーション事故」が、ここではほぼ起きません。詳しくは外勤営業のNotebookLM活用に書いています。
Gemini:Googleマップと組み合わせて移動最適化
1日4〜5件回る日は、Geminiに訪問先リストを投げて回り順を組ませます。乗り換え案内系のサービスとの相性が良く、所要時間がリアルに近い。移動効率の話は外勤営業の移動ルート効率化でまとめました。
アナログ:「雑談」「同行」「ショールーム同席」
そして、空いた時間で何をやるかが本題です。僕がいま意識的に増やしているのは、この3つ。
- 販売店の事務所での雑談(用件ゼロでも顔を出す):競合の動き、職人さんの愚痴、家庭の話。商談化する一次情報の8割はここで拾います。
- 現場同行:監督と一緒に納まりを見る。図面では見えない収まりの違和感を、その場で吸い上げる。
- ショールーム同席:施主さんが商品の前で「うーん」と止まる瞬間。あの沈黙を一緒に過ごせるのは人間だけです。
どれもAIでは絶対に再現できません。逆にここで成果を出している営業は、AIが普及するほど社内評価が上がっているのを、ここ1〜2年で実感しています。
3.「効率化だけでは勝てない」の本当の理由
正直に言うと、AIで作業時間を半分にすることは、誰でもできるようになりました。資料作成、メール返信、移動計画。つまり「効率化」は、もう差別化ポイントですらない。同じ時刻に同じ地点に立っているだけの状態です。
差がつくのは、効率化で浮いた時間を「何に使ったか」の一点だけ。僕の周りを見ても、伸びている営業は全員、浮いた時間をアナログ接点に再投下しています。週1で必ず現場に顔を出す、月1でショールーム同席を入れる、出張のついでに販売店をもう1軒回る。
逆に伸び悩む営業は、浮いた時間で「もっと別のAI効率化」を探し続けてしまう。気持ちはわかります。デスクのほうが楽だし、AIをいじる方が成果が出た気になりやすい。でも、その先に客の顔は一人も増えません。
4. 出張族の僕がやっている「ハイブリッドの一日」
具体的な1日の流れも書いておきます。地方出張、4件アポの日の例です。
- 朝の新幹線(90分):Claudeで前日の議事録を整理 → NotebookLMで本日訪問先の過去履歴を読み直し。長時間移動を快適にする工夫もこの時間に効いてきます。
- 到着後:1件目の前にカフェで10分、ChatGPTに「想定される反論3つ」を出させて素振り。
- 商談中:スマホは伏せる。AIは登場させない。メモは手書き。
- 移動中(タクシー or 徒歩):その場で議事録を音声入力。鮮度のある熱量を逃さない。
- 夜のホテル:その日の議事録をClaudeで整え、明日のメール文面のたたきをChatGPTに作らせ、自分でリライト。
この型に落ち着いてから、出張1日あたりのアポ可能数が3件→4件に増えました。でも一番変わったのは、件数より「移動中ぼーっとする時間が消えて、人と会う瞬間に全集中できるようになった」ことです。
6. 失敗してわかった「AI生成物を顧客に出す前のチェック3点」
冒頭のスペック表記ミスを二度とやらないために、僕がいま実務で回しているチェックリストです。地味ですが、これだけで事故率はほぼゼロになりました。
- 型番・品番は必ずメーカー公式の最新カタログで突き合わせる。AIが拾う情報は半年〜1年遅れていることがあります。住宅設備は仕様改訂が静かに行われるので、ここはAIを信用しない。
- 納期・在庫情報は社内システムで再確認。これはAIが触れない領域なので、人間がやるしかない。逆にここを毎回キチンと押さえていると、販売店から「あの人に聞けば早い」と言われるようになります。
- 文面の語尾と固有名詞だけは自分で書き換える。AI生成のメールは、相手の名前と前回会話の固有名詞が抜けると一気に「テンプレ感」が出ます。ここに5分かけるだけで、開封後の反応が変わります。
逆に、社内向けの議事録・週報・移動計画など「自分しか読まない or 社内のみ」のものは、AI生成のまま出して大丈夫です。チェックする時間がもったいない。顧客接点に出るものだけ人の目を通す、というシンプルなルールに落ち着きました。
7. 1〜2年で起きそうな変化と、いまから仕込んでおくこと
最後にもう一段、現場感覚としての予測も書いておきます。住宅設備の世界は変化が遅いと言われますが、それでも明らかに空気が変わってきました。
- 販売店側もAIを使い始める:見積比較がAIで自動化されると、「数字だけの勝負」では確実に価格競争に巻き込まれます。だからこそ、数字に乗らない関係資産(雑談、同行、過去の貸し借り)が重みを増します。
- 「説明する営業」から「決めるのを助ける営業」へ:商品説明はAIチャットボットで十分な時代に入ります。営業の仕事は、選択肢を整理して、最後の一歩を一緒に踏むことに寄っていく。
- 移動できる営業の希少価値が上がる:在宅・リモートが普及した分、現場に行ける営業は逆に重宝されます。年100泊している僕の体感としては、ここ1年で明らかに「来てくれる人」への評価が上がっています。
仕込んでおくべきは、特別なことではありません。AIの使い方を1つずつ自分の業務に馴染ませながら、浮いた時間で「用件のない接触」を週に1回でも増やす。これを1年続けると、AI時代の外勤営業として、ほぼ確実に頭一つ抜けます。僕も、まだその途中です。
8. AI時代にも残る、外勤営業のアナログ強み
最後に、14年やってきて確信している「AIには絶対に渡せない領域」を3つだけ書いて終わります。
- 沈黙を一緒に過ごせること:施主さんが値段を見て黙る瞬間、AIは絶対にその場にいられません。
- 用件のない接触:「近く通ったので寄りました」が次の指名発注を生みます。これはアルゴリズムで自動化できません。
- 泥臭い責任の取り方:トラブル現場に飛んで頭を下げる。これだけは、永遠にAIに代替されません。
AIで効率化することは、もう前提条件です。やらない理由はない。でもそこで止まると、誰とも区別がつかない営業になります。効率化で浮かせた時間を、躊躇なくアナログに投下する。これが、14年の現場感覚と、最初の失敗から組み直した僕の結論です。
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